hectopascal / 小糸侑(高田憂希)&七海橙子(寿美菜子) 

 このブログは私が大好きな曲たちの感想を誰かと共有したくて書きます。

 名曲の形には様々あると思います。聴いてて「これは名曲だ」と思うものもあれば、過去の情景が鮮やかにフラッシュバックするもの、なかには街を歩きながらイヤホンで聴きだすと、聴いている時間一時的に目の前の現実の認識をまるごとジャックされるようなものもあります。

 これは他の人もそうなるんだろうか?共感されても嬉しいし、同じ曲で全然違っててもとても面白いですよね!

 

hectopascal / 小糸侑(高田憂希)&七海橙子(寿美菜子) 

 

 (注)アニメ内容のネタバレ注意です。

 

 言わずと知れた名作TVアニメ「やがて君になる」のEDです。ポップで可愛らしい曲ですが、人前や他のことを考えている時、作業中に聴いてはいけない曲です。やが君鑑賞時の胸が張り裂けそうになる感覚が蘇って何も手がつかなくなります。

 やが君というアニメは私の心の中をめちゃくちゃにかき回していった作品です。誰のことも特別に思えない小糸さんと、そんな小糸さんを好きになった七海先輩の関係が変化していく。hectopascalはEDなので毎回観終わりに聴くことになるのですが、物語が進むに連れてこの曲を聴いている時の気持ちがどんどん変わっていきます。そしてこんなに苦しくなるとは誰が予想できたか。

 

 初めて聴いた時の感想は「桜Trick」のOPと似ている、でした。音程が上下して電子音が鳴り、思わず首を揺らしてしまうノリノリな曲といいますか。百合アニメはこんな曲をつけるのが伝統になったのかと思ったものです、もちろんいい意味で。その時は私のなかでは百合アニメといえば「桜Trick」で、そのOP「Won(*3*)Chu Kiss Me!」もちょくちょく聴く曲です。初めて聴いている時には、hectopascalは楽しくなりたい時に聴く曲の一つになるだろうという予感がしていました。

 

 しかしやが君はのほほんと観ることを許さない作品でした。七海先輩は好きだと伝えてくるのに、小糸さんは同じように返すことができない。返せるようになりたいのに、そうはなれない。焦燥と絶望が小糸さんの胸に溜まっていく。

 このEDのムービーはシンプルで、概ね静止画が2人の糸電話をたどって横に流れていくというもの。ですが「君は逃げてしまうかな」の歌詞と同時に七海先輩の口が動き、小糸さんの顔が紅潮するんですよね。そのシーンはまるでお互いを好きでいる恋人同士のよう。本編を観ながら、いつか小糸さんが素直に七海先輩を好きだと言えるようになって欲しい(でもそううまくいくとは思えない)と願っている視聴者としては、その一瞬のシーンは願いが叶う可能性を示してくれているようでした。

 

 しかし物語は進み、小糸さんは七海先輩を好きになる。だが、それを伝えることは七海先輩との関係を根本から崩してしまうことだった。七海先輩の脳に巣くう強烈な「こうしなければ」という観念はそう簡単に崩せるものではありません。この残酷すぎる状況のなか、それでも小糸さんは物語終盤、たとえ関係が終わってしまっても七海先輩を変えて救うことを決意します。観ていた私は、もうどんな展開でもいいからこの2人が素直に両想いになって幸せになってくれ、と切に願って胸が爆発しそうになっていました。

 ここに至ってEDの「君は逃げてしまうかな」のシーンの小糸さんの反応は、ただの素直な反応なんですよね。小糸さんは七海先輩の言葉にドキドキしている、だって好きだから。でも実は小糸さんが想いを伝えたら崩れてしまう幻の両想いなんです。そうと知ってこのシーンを観ると、切なすぎて正気じゃいられません。

 

 思えばこの曲、ノリノリではありますが底抜けに明るい曲ではありませんよね。何度も聴いているとどこか淡々と歌い上げている印象があります。2人の定まらない関係のように、明るい方向へも暗い方向へも、聴くときの精神状態で変化する。だから、アニメを観終え原作コミックスも読み終えた今、曲だけ聴くと、あらゆる思いが全部同時に来て心のなかがぐちゃぐちゃになるのだと思います。私は未だにこの作品について心の落ち付け所を見つけていないようです。

 冗談抜きで作業用BGMなんかに組み込んではいけない曲ですよ!流れてくるだけで何も手につかなくなる、やが君の持つエネルギーがそのまま音楽になったようなものすごい曲だと思います。